トレーナーの羽利です。
北陸マインドフルネスセンターでの自己洞察瞑想療法(以下SIMT)の8ヶ月のセッションを終えられたクライアントさんが体験談をお寄せくださいました。
同じように苦しまれている方の助けになればとのことでお申し出いただき、ありがたく掲載させていただきます。
後編では、私からコメントをつけさせていただきました。
目次
人生第2のスタート、これからは自分らしく生きる ―呼吸とともに安住した場所を感じながら (前編)
小野美加子(ペンネーム)
50代:女性 セッション期間:2019年12月~2021年3月
本体験談は、日本マインドフルネス精神療法協会発刊「マインドフルネス精神療法 第7号」に掲載されます。
(この写真は、ご本人ではなくイメージ写真です)
要約
人生の大半を心の病で悩んできた。10年前にマインドフルネスに出会って瞑想をしていたが、日常生活の行動の中で生かすことができなかった。
15ヶ月にわたるオンラインでの自己洞察瞑想療法のセッションと訓練によって予期不安や拒絶過敏を改善することができた。
出来事に対しての自分の解釈に気づき、やがて、あるがままに見たり、聞いたり、受容することができるようになり感動した。
セッションの終盤には、歯科治療での極度の緊張と両親の病後の世話における葛藤で再びうつ状態に陥った。
しかし、これまでの実践のプロセスを振り返り、呼吸法の時間を伸ばす習慣を取り戻し、自分で自分を立て直すことができた。
今では夫の愛情を感じることができるようになり、家族との時間、趣味の時間を楽しめるようになった。
不満を抱えていた親に対しても、冷静に、温かく関われるようになった。断薬の離脱症状もSIMT(自己洞察瞑想法)の実践で乗り越えることができた。
今後は、より人のために役立つように生きていきたい。
自己洞察瞑想法に辿り着いた経緯
私は、10代後半の頃から、何かある度に不安障害やうつ状態になり人生の大半を心の病で悩んできました。
地下鉄に乗ると急に怖くなり、冷や汗が出て、降りたくなることがありました。病院の検査で個室に入り突然不安に襲われ、逃げ出したこともありました。
体のちょっとした不調を重く受け止め、悪い想像をして余計に悪化させていました。また人に言われたことに反応し、その言葉が頭から離れず「軽んじられている」「愛されてない」などと思い込み涙することもよくありました。
人間関係は上手くいかず、傷つきやすく、特に夫には怒りをコントロールできないことが度々ありました。
何年も続くそんな自分が情けなく、何とかしたいという気持ちは強く持っていましたので、さまざまな心理療法を彷徨ってきました。
しかし、どれも上手くいかず、結局は心療内科に通うことになり、薬で落ち着いては再発を繰り返していました。
そんな中で10年前にマインドフルネスを知り、毎日瞑想に取り組んでいた時期もありました。しかし、瞑想時はリラックスできても日常には全く生かすことができませんでした。
後に大田健次郎先生のうつ・不安障害を治すマインドフルネス―ひとりでできる「自己洞察瞑想療法」の本に出会うことができて、その理由が分かりました。日常では「今ここ」に戻ることができていなかったのです。
その後、本格的に学びたく北陸マインドフルネスセンターでSIMT(自己洞察瞑想療法)のセッションを受けることにしました。
自己洞察瞑想療法の実践とその経過
あるがままに観ることができた清々しさ
私には、何かのきっかけで連鎖して過去の不快な出来事を思い出したり、未来を想像して予期不安になったり自分自身を辛くする傾向が強くありました。
まず自分の心の状態に気づき観察して止める練習をしていきました。
否定的な思考ばかりに集中している意識を分配するスキルを知った時はとても感動しました。これが出来れば何とかなると思い毎日コツコツと練習していきました。
人間関係では相手の言葉や行動によって私は傷ついていると信じきっていました。
セッション7に取り組んでいたある日、見たこと・聞いたこと・感じたことに自分が解釈をつけていることに気づきました。私にとって難しかった「あるがままに観る」を理解できた時の清々しさは忘れることができません。
それ以降、特に夫婦関係が劇的に変化していきました。以前は、夫が言った一言で激怒しトラブルが絶えなかったのに、段々と主人から愛されていることを実感できるようになって、私自身や家族に笑顔が増え、順調に進んでいました。
再発を自分で乗り越える
ところがセッション8あたりに2か月間、歯科治療を数回に渡って受けることになり、当日の極度な緊張と予期不安に苛まれ、今までのトレーニングが上手くいかず、親の病後の世話も重なりうつ状態が再発してしまいました。
その時の私は「他に回復された方よりも自分は歳を取っている、もっと時間が掛かるのではないか、そもそも回復が難しいのではないか」などとマイナスの考えがよぎっていました。
しかし、毎日の呼吸法、行動時自己洞察、記録表、運動を続け、家事、仕事も休みながら体のだるさはあっても止めることはしませんでした。
また、過去に瞑想を日常に生かせなかった経験から行動時自己洞察を中心に行っていた私ですが、この辛い時期をきっかけに座る時間を取って呼吸法を真剣に取り組むようになりました。
両方の実践の大切さを知り、毎日20分~30分行いました。
この本をマスターするしかない
様々なカウンセリングや心理療法を経験していた私は、大田先生の本に出会う前にはすでに「誰かに悩みを聴いてもらったり、引き出してもらったりしても自分が変わることはできないのでは?」ということを感じていました。
そして大田先生の本を読んでSIMTの素晴らしさを直感し「もうこれしかない、自分がやるしかない」という気持ちになりました。その気持ちを思い出してこの苦しい間も「この本をマスターすること」に集中しました。
そして次第にセッション9の後半にはまた元気を取り戻し乗り越えることができました。
被害者意識(拒絶過敏)を克服
SIMTを実践してきてたくさんの気づきがありました。他人からの言葉を否定的に感じるのは、「私は否定されている」という私自身の被害者意識でした。
あるがままに観られるようになって、被害者意識(拒絶過敏)が克服されていきました。被害者意識を強く持っている間は「大事にされていない、愛されていない」というのは当然でしたし、相手から「何か言われる」と防衛して体に力が入っていました。
また、否定的に捉えているのは自分自身に対しても同じことで自己肯定感の低さにも繋がっていました。
ほしい、ほしいの渇望を手放す
私が育った家庭は「機能不全家族」と言われるものだったと思います。父がいつ怒鳴り出すか分からないので家庭には常に緊張感がありました。
父の機嫌を損なわないよういつしか自分の気持ちを表すことが出来ない子供になっていました。母はそんな家庭で育つ私の心を汲み取ることが苦手な人でした。
私は心の病気になったのは親のせいだと長い間恨んできました。その反面、いくつになっても親の愛情が欲しくて渇望していました。
セッションを進めていくなかで、呼吸法をしながら両親の言葉を聞く練習、あるがままに捉える練習をしました。
セッションの終盤、あれほど難しいと思っていた両親との関係が段々と改善されていきました。
ある日、私と父との会話を聞いていた母から「お父さんと話している様子、以前と違うわ。ものの言い方が柔らかく優しい感じだった」と言われました。
自分の変化や、またその変化に気づいて母が言葉にしてくれたことに感動し、とてもうれしかったことを覚えています。
ほしいほしいという渇望(本音)がなくなり、自分が高齢の親の役に立ちたいという思いが優位になってきた時、肯定的なフィードバックを受けることになりました。
今ではどんな自分もOKだと思え、たとえ相手の言葉に賛同できなくても、相手の意見だと受容できるようになりました。
愛されていないという催眠が解けたら(作られた自己だと気づいたら)平凡な日々には「愛しかなかった、愛はすぐそこにあった」と気づくことができたのです。
「愛されていない」ではなく私自身が愛を受け取っていなかったのです。
そして呼吸法のトレーニングのお蔭で脳の興奮も落ち着いたのでしょうか、今は苦手な場面でも落ち着いて対応できることが増えてきました。
自分の心の作用を知っていくことで、みだりに感情的になっていくことが減っていきました。
回復者の皆様からの体験談:人生第2のスタート、これからは自分らしく生きる ―呼吸とともに安住した場所を感じながらー(後編)に続く