マインドフルネスにたどり着いた方の中には、なかなか治らない身体症状を抱えた方も多くいらっしゃるのではないかと思います。
何を隠そう、私も慢性疼痛に苦しみ、マインドフルネスにたどり着いたので何となくお気持ちはわかるような気がします。
確かに、呼吸に注意を向けながら座っているとリラックスできそうな気がしてきますし、なんとなく痛みから逃れられそうな淡い期待はありました。
しかし、そんなに簡単に痛みから逃れることができたかというと順風満帆ではありませんでした。
それはなぜか?
今日はそれについて書いていきます。
目次
結局はっきりと特定できなかった症状の原因
私は、30年以上付き合ってきた腰痛を治すために整形外科や治療院をドクターショッピングを繰り返してきましたが、万策尽きた頃に、認知行動療法に出逢いました。
それは、カウンセラーとして認知行動療法を学んだ後、腰痛の改善効果があるということを知ったからです。
痛みに心理療法!?
時代は変わったものだとその時には衝撃を受けたものです。
なかなか「心の問題」と認めたくなかった
ところが、自分の痛みの原因が心の問題とはなかなか認められなかったのです。
実際、仕事もできていたし、夜も眠れており、痛み以外に不調は感じていなかったからです。
しかし、今思えば、心理的なストレスがなかったかというとそうではなく、痛みに注意を奪われて、
仕事のプレッシャーや将来への不安や葛藤、サポートが足りない心細さという心理的なストレスを
感じられていなかった、あるいは見てみぬふりしていたというのが本当のところだったのではないかと振り返ります。
また少なからず、心理や教育のような支援的な立場で仕事をしていた私は、自分に「心の問題などあってはならない」と思っていた節もあります。
そんな私ですから、体はいつも緊張していて、瞑想時間は15分継続できるようになるには3ヶ月ぐらいはかかったように記憶しています。
瞑想していても痛く、痛くて瞑想できなかったのです。
他人に指摘されても「心の問題」だと思いたくない心理
治療者に「それはストレスでは?」とか「それは心の問題では?」って言われたらどうでしょう?
痛みに限らず身体の不調があるのは事実なのに、そのつらさや不安に寄り添ってもらえず、一方的に決めつけられてば反発したくもなりますし、
私のように身体的な治療や施術に固執し、万策が尽きた人は、いよいよ「やっぱりそうかな」と思うかもしれません。
反応はそれぞれだと思います。
でも、心の問題と決めつけられるのは気持ちの良いものではありません。
心の問題を疑うことのないご相談者の方にうっかり口を滑らそうものなら、抵抗に合うのは容易に予想ができます。
さまざまな要因が複雑に絡んでいる問題
社会には解決が難しい問題が多く存在します。
例えば、少子化や貧困の問題の解決にそれぞれの立場の方が取り組んでいますが、なかなか解決しない社会問題となっているのは周知の事実です。
これらの問題の原因は、それはなぜか?それはなぜか?と従来型の論理的思考で直線的に掘り下げていっても真因にはたどりつけないかもしれません。
原因かもしれないとい思うことが相互に影響しあって複雑に絡んでいるからです。
人間の身体も同じように考えられるのではないでしょうか?
人体は機械よりももっと複雑なシステムですので、機械を修理するほど原因探求は簡単ではありません。
人体を有機的に理解できるようになった時、
30年も痛みから自由になれなかった私は「生物(つまり身体)ー医学」モデルの限界を受け入れざるを得なかったのです。
【生物ー心理ー社会モデル】で身体の問題をとらえていくのは時代の流れ
そこで、保健医療の領域では既に【生物ー心理ー社会モデル】で身体の問題をとらえていく傾向が既にあります。
認知行動療法の腰痛治療への応用などはわかりやすい事例でしょう。
【生物ー心理ー社会モデル】というのはどういうモデルかというと、生物・心理・社会のシステムが入れ子のような関係にあるモデルを言います。
(ここでのシステムというのは、それぞれの要素が相互に影響して機能しているまとまりのことを指します)
生物システムは、脳、神経、遺伝、その他細胞からなる器官ほかから成り
心理システムは、認知や感情、信念、ストレス要因などから成り、
社会システムは、私たちが身を置く、家庭や職場、地域、経済や文化などから成ります。
こうして図で見ると、身体の問題は身体だけで起きているのではないことが一目瞭然となります。
マインドフルネス瞑想だけでは身体症状の改善には心もとない理由
生物ー心理ー社会モデルで考えてみると、マインドフルネス瞑想だけでは身体症状の改善には心もとないです。
というのは、閉鎖的な環境でマインドフルネス瞑想を行なっている時というのは、あなたの症状を引き起こしているかもしれない環境から離れ、影響を受けていないからです。
もちろん、安全な環境で自己洞察の訓練を重ねていくことは多いに価値があることなのです。
今ここへの気づきが高まり、受け入れるという心の柔軟性が獲得されれば、心理システムのコンディションが変わります。
そして、それらが周囲の人との対人関係で静的にも動的にも好ましい影響を及ぼせば、心理的なストレスは減り、身体のストレス反応を変えることにつながります。
自己洞察瞑想療法のトレーニングにマインドフルネス瞑想は不可欠です。
しかし、会社や家庭などの環境に心理的ストレスを抱えているのであれば、瞑想に終始するだけでは、行動で変えられるはずの心と環境に潜む問題を積み残したままになります。
症状を改善したいのに、どことなく壁がある感じするのはそういうことなのではないでしょうか。
そのため、自己洞察瞑想療法のトレーニングでも、無理のない時期に、生物システムと相互に影響を与え合うより大きなシステムとの関係を整理し、対処方法を検討していくことになりましょう。
自己洞察瞑想療法は【生物ー心理ー社会モデル】に基づく実践です
自己洞察瞑想療法は、【生物ー心理ー社会モデル】に基づく実践と言える理由は、うつ・不安障害を治すマインドフルネス―ひとりでできる「自己洞察瞑想療法」132ページの【図5自己が作りつくられる2つの世界】にあります。
入れ子にはなっていないのですが、外的環境、心の場所、内的環境が相互に作用しあっているのがわかります。
実際には、
転職して会社の文化(社会システム)が変わったらパニックが起きることがなくなった。
対立していた家族に感謝(心理システム)できるようになったら眠れる日が増えてきた(心理システムの変化ほか)。
恐れていた上司に、仕事だからと割り切って主体的に報連相するようになったら(心理システム)、ぐるぐる思考が減った。
なんてことがあって、さまざまな要因が影響を与え、与えられ現象が起きています。
そこで、症状が、まずは生物的なシステムの中のどの要因に基づいて起きているのかを検討したら、
次に心理システムや社会システム(環境)のどの要因に影響を受けて、その症状が出ているのかということを丁寧に考えてみましょう。
マインドフルネスだけで症状を良くしていこうというのは、ややもすると旧来の「生物ー医学モデル」に基づくものとなり、私のようにまたドクターショッピングを繰り返してしまわないかな?
とちょっと心配しながら見ており、【生物ー心理ー社会モデル】で問題を整理する提案をするタイミングを図っているのも事実なのです。