うつ病を治すために、目標を達成すべきものではなく「道具」として使いこなす

心の病を患ったクライエントが心理療法に取り組む際に「目標を持ちましょう」と助言をしたら、どんな反応を示すでしょうか。

人それぞれだと思うのですが「今はムリです」とか「会社で目標、目標と言われてうつになりました」みたいな返事が返ってくる可能性がゼロではありません。

目標を持つことは簡単なことではないのは予想ができますが、それでもなお、心理療法を進めるにあたって目標が必要な理由を考えてみます。

もし目標がなかったら?

私は、企業研修の中で、目標設定について教える機会があります。

その時に「もし目標がなかったらどうなりますか?」とお尋ねすると、多くの場合、

「怠ける」「今のまま」「張り合いがない」などという回答があります。

また、

「自分の意思とはかけ離れていたり、設定された目標の根拠が示されていない目標はつらい」

その一方で、

「自分が決めた目標なら主体的に取り組める」という回答もしばしば聞かれるものです。

みなさんはいかがですか?

心理療法にも目標は必要

先日、心理療法にも目標は必要という内容の記事を書きました。

正直、そうだとしたら皆さんは「前向きに目標を持ちたい派」ですか?
それとも「持ちたくない派」ですか?

前向きだからいいとかそういうことではなく、ただ「持ちたくない派」の方に、私だったらどう助言するかな、ということを整理してみたいと思います。

「今は、目標は持ちたくないという気持ち」をまず受容してほしい

心を患うことになった経緯は人それぞれかと思いますが、お話を聴かせていただくと

「そんな出来事が起きれば、なかなか対処できずに苦しむのは最もなことだなぁ」

「そんな出来事が続けば、心も折れるよなぁ」

「そんなサバイバルな人生を生き抜いてきたのであれば、身も心も擦り減るよなぁ」

と、思うことはしばしばあります。

だから、そんな時は、まず身体を休めて、頭を休めて、ちょっと元気が出てきて、自分から動きたいなと思うまで、待てばいいと思うのです。

しかし、どんなに休んでも、自然とその状態ではいられないと思う時期が来ると思いきや、やっぱり動けない、動きたいのに体が動がない・・・

そんな状態になることだってあるはずです。

そんな時にちょっと工夫してみてほしいなと思うことがあります。

そんな目標でいいの?ってところから始めることの効用

まずは、一見すると「低すぎる行動目標」でいい

極端な話、布団から出られない、あるいは外に出られないということなら、自分でカーテンを開けて陽を浴びるというあたりのところから始めることでも大躍進ですよね。

外に出られる人は、いきなりランニングじゃなくって、気持ちがいいと感じられるぐらいのウォーキングでいいし、

顔を洗う、歯磨きをするみたいなことが、できなくなっていたら、以前できていたことを取り戻すだけで十分なのではないでしょうか?

健康な状態の時は、「目標は、少し頑張れば達成できる程度の水準に設定するとよい」というのが定説ですが、

今、そんな余力がない時は、元気な時にできなかったことを目標にしても、疲れが出るし、長続きもしない。

できていたことをゆっくりと取り戻すことを焦らずにやればいいのではないかと思うのです。

最初から気乗りがしない行動目標を立てる必要はない

症状を治すために良いとされる行動でも、最初は「気乗りがしない行動」を目標にする必要はないでしょう。

なぜなら、気が乗ることの方が、簡単にできるし、できると気分がいいからです。

例えば、有酸素運動が推奨されていても、今、気が向かないのなら、ストレッチやラジオ体操でもいいし、散歩でもいいのです。

「体が動けばなんでもいいぐらい」から始めて、自分にプレッシャーをかけないことがないことが安全です。

心の中で嫌だなと思っていることを無理してやるほど意志が回復していない時は、無理をすると後で余計なしわ寄せがきて、やっぱり動きたくないということにもなりかねませんので。

「マイナス」から「1」を目指してスタートすればいい

元気な時は、できていたはずのことができなくなった。

この言わば、マイナスの状態を、元気な時にできていた状態に持っていくことができれば、もう大躍進ですよね。

症状があっても、まずは、日常生活を取り戻していければいいのです。

「そんなのできて当然」と他者から言われても、気にしないで、自分の低すぎる目標を維持し、安定的に達成できるようにします。

完璧にできなくてもOKです。だって、今、リハビリ中なんですから。

そして、

「やろうとした自分」「動き出した自分」の脳の「前頭前野」は活性したんだぞ!と考えて、自分にOKを出します。

また、

どんな些細なことでもいいので「達成感」を感じた時、あなたの脳の中で「ドーパミン」という神経伝達物質が増えることになります。

やる気がない、意欲がわかないという時は「ドーパミン」がうまく働いていないと考えて、必要以上に自分自身を責めないようにしましょう。

少しでも達成感を味わえる、一見、低すぎてかつ気乗りのする行動目標に取り組めばいいのです。

まずは動くことが大事。

その後のことは、低すぎてかつ気乗りのする行動ができるようになってから考えればいいのです。

目標は達成しながら元気になっていく

できもしない行動目標を設定して自爆する必要はない

これは、私の偏った経験と見方であることを知った上で書きます。

これまで心理療法を受けられたクライアントさんを見ていても、やったこともない激しい運動にいきなりチャレンジして続いた方にはまだお会いしたことがないのです。

食事を食べたり、食べなかったりする方が、いきなり難易度の高いメニューを作ったりして、長続きした方にはお会いしたこともないのです。

もちろん可能性としては「ゼロ」ではなくって、「ハマってしまった!」という方もいるかもしれないけど、私のクライアントさんにはいないのです。

高すぎる目標が達成できずに自爆して

「やっぱり私ってダメね」という無力感を学習してしまうのはもったいないことです。

自己否定は、症状の改善にほどんど役に立ちません。

もっと「ドーパミン」が出るやり方でやりましょうよ、って思うんですよね、私は。

目標は道具である

私たちは、子供の頃から、高い目標にチャレンジして達成すると褒められる、賞賛される、表彰されるという文化の中にいるのかもしれません。

なので、ついつい目標を達成するには無理をしなければいけないと思い込んでいる節はないでしょうか。

会社では、評価がつきものですので、自分の意志に反して頑張らざるを得ないということも起きてしまいます。

調子を崩して、回復する過程においてはくれぐれも目標で自分を潰したりしないで、むしろ自分が回復するための「道具」として目標を使ってみてください。

ちなみに私事ですが、

私の日常の行動目標は、自分で見ても「しょぼい」と思うことが羅列されていますが、1ヶ月間、連日達成できることばかりではありません。

だからこそ「今日はやったぞ!」「今日はできたぞ!」という一見低すぎると思える目標の達成を喜び、ドーパミンを増やす儀式が楽しいのです。

私にも高い目標がない訳ではありません。むしろ、常にあります。

その高い目標を達成するための道具が、一見すると私には低すぎる目標なのかもしれません。

 

 

  • この記事を書いた人

羽利 泉(はりいずみ)

石川県金沢市でカウンセリングや「うつ・不安障害を治すマインドフルネスーひとりでできる自己洞察瞑想療法ー」の講座をしたり情報を発信している公認心理師(国家資格)・マインドフルネス瞑想療法士です。マインドフルネスの実践を通し、心身症状で悩む方のサポートをしています。